東海道53次 23.藤枝
佐野喜版(1840)
「狂歌東海道」-横大判56枚揃物
彫師:松田寅藏 / 摺師:小川文彥
浮世繪之美 - vol.3123
対岸の家々の屋根が藤枝の宿場とすると、その西側手前を流れる瀬戸川の歩行渡しの様子を描くものと思われます。ここでは旅人を背負う形での川越し風景です。画中右手の仮橋は中洲の所で、戸板によって止められています。したがって、旅人は川越し人足に人足賃を払って川を渡ることになります。従来の作品構成を考えると、「瀬戸川」と副題が記されていてもよい情景です。前掲『東海道中膝栗毛 三編上』(岩波文庫p196-197)では、「瀬戸川を打越、それよりしだ村大木のはしをわたり、瀬戸といふ所にいたる」とあって、藤枝から島田に向かう途中に、瀬戸という場所があることが分かります。前掲『東海道名所圖會 巻の四』(前掲『新訂東海道名所図会中』p274)には、「名物染飯(そめいい)」として、「瀬戸村の茶店に売るなり。強飯(こわいい)を山梔子(くちなし)(赤味を帯びた濃い黄色)にて染めて、それを摺りつぶし、小判形に薄く干し乾かしてうるなり」と紹介されています。
広重は瀬戸川の歩行渡しを描いていますが、狂歌はその西方にあった瀬戸村の山梔子を使った染飯が題材です。おそらく、広重は藤枝の瀬戸川を描いて、瀬戸の染飯を暗示させる作戦を採ったものと想像できます。染飯は腰の疲れに効いたようですが、今日伝承されていないところをみるとあまり美味しくないのかもしれません。狂歌は、瀬戸の染飯は山梔子で染めるものではあるけれど、「口なし」と言いつつ女衆が口やかましく売っているという意味です。「口なし」の地口遊びを通して、名物染飯を紹介する趣向です。『東海道名所圖會 巻の四』(前掲『新訂東海道名所図会中』p277)には、「山吹の花の染飯喰しやれと いへどこたへずくちなしにして 誹諧歌 簾相法師」という歌があり、前掲『東海道中膝栗毛 三編上』(岩波文庫p197)には、「やきものヽ名にあふせとの名物は さてこそ米もそめつけにして」とあるなど、藤枝の宿場では「瀬戸の染飯」が歌枕となる程有名であったことが分かります。その他、前掲『春興五十三駄之内 』「藤枝」図版および狂歌参照。
口なしの 色をばよそに かしましく
あきなふ妹が 瀬戸の染飯
清室真寿実
歌川廣重(Utagawa Hiroshige,1797-1858)
《東海道五十三次》爲浮世繪大師歌川廣重成名作
描繪由江戶至京都的53個宿場
包含起點的江戶日本橋和終點京都内裏共56景
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